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自殺許可証
Papa told me

「こちらの用紙へご記名をお願いします」

機械から発せられる抑揚のない声と共に
酷く事務的に出力されたピンク色の用紙には
それほど大きくもないゴシック体の太字で
【諸権利放棄及び身体廃棄許可申請書】とのタイトル。
一般には、平たく「自殺許可願い」と言われている。

医療技術の進歩により、心肺停止状態はおろか
死後数日経った遺体でも蘇生が可能となって十数年。
民間レベルにもその技術が浸透したことで
人は老衰に起因する衰弱死以外で死ぬことは稀となった。

そんな科学技術の発展とは裏腹に、社会情勢の悪化や
人々の精神的疲弊度が増した結果、自殺は増加の一途を辿り
その発生件数が、あまりにも増えすぎたことによって
一部の自殺は犯罪として取り締まられるようになっている。

特に、債権などを残し、社会的責任を放棄する目的で行われた場合
蘇生された上で多額の蘇生費用と罰金が請求される。
身体の損傷が酷い場合は、バックアップされた直近の記録を元に
法規的クローンによる肉体再生が行われ、同様の請求が為される。

また、自殺は親告罪でもあり
関係者の申し立てによる立件も可能となっているため
未成年による犯行の場合はこちらでの適用が多い。
子どもが自ら死ぬことをよしとする親は多くはないのだ。

そんな中、自由に死ぬ権利を主張する団体も現れた。
「人は国家の奴隷ではない」とのプロパガンダの下に
自分自身の生殺与奪に関する権利獲得を目的とした集まりだ。
ただ、この団体の関係者が自殺をした話は聞いたことがない。
ともあれ、世論のひとつとしてクローズアップされたことにより
折衷案として考案されたのが、この「自殺許可願い」である。

合法的に自殺する権利を得るためには
二親等までの承諾と許可、通常生活圏における関係者の署名に
債権の有無を調査した報告書などが必要となる。
そう言った書類を一通り揃え、審査を受けることで
ようやく「自殺許可願い」が発行される。

それを提出すれば、晴れて「諸権利放棄及び身体廃棄許可証」
つまり「自殺許可証」を手に入れることができるのだ。

初めて見る「自殺許可証」に自分の名前を記入しながら
少し手が震えていることに気づき、思わず苦笑する。

僕が許可証を欲したきっかけは、“なんとなく”だった。
取り立てて欲もなく、これと言って苦労もなく
日々をただ生きているという人生。
それはそれで悪くないと思っていたのだけれど
取得が酷く難しいというこの許可証のことを知ってから
無性にその存在が気になり始め、実際に取得を志した人や
取得できた人、取得に関わった人々の情報を集めた。
調べれば調べるほど、どうしようもなく魅力的に思えてきた。

そうして、実際に手続きの準備を始めたのは半年ほど前になる。
仕事を円満に辞め、周囲との関係を少しずつ清算し
ローンや借り入れも全て完済する。
様々な書類は少しずつ揃ったけれど、一番苦労したのは親の承諾だ。
こればかりは仕方ないと思うのだけど
今更引き下がる訳にもいかない。
なだめすかし、時には「許可証なしでも死ぬかもしれない」と
脅迫ともとれる、普段の温和な僕からは想像できないことも言った。

そんな、僕がこれまでに見せたこともない熱意に負けたのか
説得を始めて8日目に、ようやく承諾をくれた。
泣いていた。僕も泣いた。

それから、実際に許可証を手にしてからは
まるで、死刑執行を待っている気分。
実際、僕は自分自身に死刑を言い渡したのだけど。

そうして許可証発行から一週間、ついに執行日がやってきた。
国から派遣された立会人の下、自殺は執行される。執行する。
場所は、国指定の葬儀場の狭い一室。
部屋の中にいるのは、僕と立会人だけだが
この状況は録画され、希望があれば遺族の元へ届けられるらしい。

立会人から手渡された死ぬための薬は乳白色をした液体。
子供用風邪薬のシロップのような容器に入れられて
うやうやしく手渡された。

「これ、飲んだら死んじゃうんですよね」

立会人の中年男性は、無言でゆっくりと頷いた。

事前に貰ったパンフによれば、執行後の僕の体は遺族へ戻されず
そのまま、葬儀場で廃棄処分されるとのことだった。
どうやら、不正なクローン化を防ぐ意図があるらしい。
直前になって知らされるのも事前のバックアップを避けるためとか。

無言の彼に促され、部屋の中央に据え付けられた安楽椅子に腰掛ける。

「その薬は一気に、飲み干す必要があります」

僕が薬の容器を手にして躊躇していると
ようやく口を開いた立会人は表情も変えずに言う。

長らく容器を見つめた後
僕は意を決して、その薬を飲み込んだ。



白い天井。

白衣を着た女性が僕の顔を覗き込んだ。
「起きられました?ご気分は?」

ご気分も何も死んだ人間には、と言いかけて
だるい感覚が全身を支配していることに気付いた。
そうして、恐らくはまだ死んでいないことも。

「ここは、どこですか?」

力の入らない腕をどうにか動かして
よたよたと向き直り、白衣の女性に聞いた。

「第二処置室です」

その後に聞いたこの部屋の意図は
朦朧とした脳の中をゆっくりと波立たせてくる。

許可証によって、自殺を執行したものは
心肺停止しているものの死んでおらず、仮死状態となる。
そのまま、面会を希望した親族や知人の前で簡易の葬儀が行われ
その後、この第二処置室へと運ばれる。

そうして、全てを終えた後に最終確認となるのだ。

「ここに2つの薬があります。
こちらの赤い薬を飲めば、数分後にはゆっくりと意識がなくなり
あなたの体は溶けだします。半日も経てば、跡形もなく消えます。
そうなってしまえば、蘇生は完全に不可能となります。

もう一つは記憶を部分的に消すものです。
あなたの家族と友人知人、そして許可証に関する全ての記憶を」

僕は少しだけ迷って、2つ目の青い薬を手に取った。
白衣の女性はにっこり笑って「やっぱり」と言う。
「ほとんどの方はそちらを選ばれます」

薬を飲み込み、意識が途切れる中で
僕は、どうやら完全な自由を手に入れたことを悟った。

また久々に Papa told me カテゴリです。

珍しくシリアスめなSSを書いてみようかと思ってつらつらと。
書いた直後は、割と社会派っぽい感じになったと思ったけど
そうでもない感じでした。やっぱりSF!

あと、死ぬとか何とかいう話ばっかり書いてる気がする。
comments(6) | -
コメント
死ぬ話は夜読むと気分が沈みます。
やはり、
軽めにお願いします。
小さな恋の話とか。。
文体は好きですけれど。
2010/09/02 12:49 AM by Hiroko
んー、これ、死ぬ話ではないのですけどね。
しがらみのない自分へ転生するという、希望を込めたものです。
説明しちゃうのもナニですけど。すごくナニですけど。
最後をどう受け取るかで印象は変わると思いますが
少なくとも自分では、重くなり過ぎないようにしたつもりです。

軽めの小さな恋の話も悪くないですが
言われて書くのはちょっとなぁ^^;
2010/09/02 1:09 AM by 湯沢原
淡々としているとこがいいですねー。

主人公は死でなく許可証に魅力を感じているので自由を得るラストは良いと思うんですが、記憶を消された後のことを考えるとまた死を求めてしまうとか堂々巡りになりそうな感じはしますね。

自由さで言うと許可証を得て保留している状態が最も自由なのかも。

ここから、リセットしたひととして、整形したひとみたいに社会的に肯定されつつも若干後ろ指さされがちな第二の人生をおくるひとたちの話とかに広げてもいいかもですね。

リセットした自分や相手が捨てたがった過去を知りたいとか知りたくないとかやきもきする感じで。

つきつめてみれば小さな恋の話という塩梅で。

2010/09/03 5:03 AM by りゅうご
あまり抑揚のない方が話的に合うかなーということで
こんな感じです。お気に召したらこれ幸い。

そもそもの話の発端が、自殺する人が自殺する理由を
完全に取っ払える方法は?というところからの発想なので
記憶を消す説明の中で、別の土地で再出発できる旨を
説明する描写もあったんですが、蛇足かと省きました。
明るいラストのためにはあった方が良かったかも。

許可証は有効期限があるので、保留は長く続けられませんが
期限が切れようとも、所持していることを心の支えとして
生きていく人なんかも考えてました。
退職届を机の引き出しに潜ませるような感じですね。

世間的にはリセットする事実自体が隠匿されているので
上手く摺り合せるのが難しいんですが、ここから話を
拡げていくのは、楽しそうだなと思ってます。
許可証の業務に関わる人の話とかも書きたいところ。

そっちの方なら、小さな恋も楽に書けますね。
2010/09/03 9:33 AM by 湯沢原
自由に使える時間の全てを製作に回しているので
他が何も出来ずに居ましたが・・・湯沢原さんの短編、
漸く読むことができました。

私は死ぬことばかり考えているので(自殺願望はない)
死(自殺)をテーマにした作品に、特に抵抗を感じない
のですが、あまりに淡々とテンポ良く話が進むので
逆に不安を感じました。さすが案内が上手いですね。
面白かったです。

銃夢に「自殺マシーン」のような物が出てきたのを
ふと、思い出しました。生きることも当然大事だけど
死ぬ権利と言うのも無視できない。

全ての命は死に向かって直進してますから、生きる権利
死ぬ権利は、実はセットなんだと考えてます。

まさか、記憶を消去して新たな人生を・・・なんて
願望があったりしないですよねぇ?
2010/09/13 4:20 PM by kabejima
感想ありがとうございます。

死は誰にでも関係のある事柄なので
ある意味、非常にキャッチーな題材ということで
我乍ら、つい依存しがちな気がします。
ただ、扱いが雑にならないようにはしていますが。

物事が上手く行き過ぎると
なんとなく不安になる感覚ってありますよね。
テンポにはそれなりに気を配ってるので
今回は不安になって頂けてなによりです。

公共的な自殺設備は「銃夢」以外でも
「ソイレント・グリーン」とか、その派生とか。
ある程度そういう部分も念頭に置いてました。
その上で、日本のシステムに組み込んだらこんなかなーと。

禁固刑なんかは、死ぬ権利を剥奪する刑罰だと思いますが
生きる権利を剥奪する死刑よりも残酷かもしれません。

> まさか、記憶を消去して新たな人生を・・・なんて
> 願望があったりしないですよねぇ?

小説が願望を描くものだとしたら、そうかもしれませんね。
ただ、それが現実になることを欲してるとは限りませんよ?
でもまぁ、いまここでセーブできたら、それも良いですよね。

それにしても、制作第一の姿勢は見習いたいものです。
日々、遊び呆けておりますので。とほほ。
2010/09/14 1:00 AM by 湯沢原
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