[-秘密基地01-試練場-]
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試練場【最新の一枚】

呟記

秘密基地01管理人の日記。
他人の不幸は蜜の味
Papa told me

その端正な顔立ちの長身の男は
まだ釈然としていない私に、もう一度説明してくれた。

「先ほどから申し上げておりますが
当社に貴方の不幸を買い取らせて頂きたいのです」

「はぁ……それはわかりましたけど、いや実質的にはわかりませんけど
つまり、どういうことですか? 私をどうしたいんですか?」

さっきから、不幸、不幸と人を貧乏神だか疫病神のように言われ
流石にカチンときていたし、話の主旨はわかっても
それが何を意味するかが判断できないことに
苛立ちは募っていたから、つい声を荒げてしまった。


確かに現在、私はとても不幸ではある。
両親は去年の暮れに多額の借金を残して失踪するし
長年付き合っていた彼氏には浮気された上で捨てられたし
挙句の果てに人員整理で会社もリストラ。

そんな身も世もない風体でハローワークからの帰り道に
この色男に呼び止められたのだ。

「つまりですね。
当社は長年の研究により、不幸の結晶化に成功しました。
これはどういうことかと言うと……聞いてます?」

「聞いてはいますよ……でも、わかってはいないです」

この整った顔立ちの男性に誘われてしまっては
すっかり弱った心で抗うことは難しく
この喫茶店でこうやって、彼の話を聞く羽目になったわけで。

「そうですか。……わかりました。
それでは一度お試し頂きましょう。ちょっと待ってくださいね」

彼は抱えていた黒い鞄から、テスターのような器具を取り出すと
テーブルの上に置いて、そこから生えた端子を私に差し出す。

「すみません、キャップを外してこれを咥えて頂けますか。
大丈夫です大丈夫です、ちゃんと消毒されてます。
そうして右の手のひらは、そうそう、こちらのパネルに」

いそいそと準備する彼に言われるがまま
コードの繋がったもんじゃ焼きのヘラみたいな金属を咥え
器具の上に描かれた右手のシルエットに、掌を乗せる。

チラリと彼の方を向くと、じっとこちらを見ている。
ついドキリとする。
彼がそれじゃあ行きますよ、と言ったが早いかスイッチを入れた。
ピリリと、軽く電流が走ったような感触がした。
痛くはないが、少しこそばゆい。

一拍置いて、目の前の彼が問うてきた。

「どうですか?今、不幸を感じますか?」

言われてみれば、何だか気持ちが軽くなったような。
いや、フラットな気分になったと言った方が近いかもしれない。

「まぁ。少し違う感じはします」

仕事が見つからないことの焦燥感や
借金に対する不安感、そういったものを忘れた訳ではないけど
心の中に溜まっている感じはかなり薄れた気がする。

私の返事を聞いて、彼は満足げに頷くと
テスターの上蓋を外して、中から小さな何かを取り出した。

「これが不幸の結晶です」

彼のきれいな親指と人差し指に摘まれた、真珠のような大きさのそれは
そのサイズには不釣合いなほど、雑多な色のマーブル模様が刻まれ
じっと見ていると、そこはかとない嫌悪感を感じた。

そこから彼は更に雄弁になり、その結晶の使い道として
装飾品に使われていることや、それがもたらす幸福感のこと
(他人が持つと、不幸の結晶は逆に作用するらしい)
不幸の度合いによって結晶の大きさや色が変化すること
私の結晶が思ったとおり、品質が良かったことなど
ものの数分間にまくし立てた。

その全てが相変わらず胡散臭く、信用はおけないけれど
確かに一時的ながら、心が楽になることはわかったし
その上で報酬も頂けるというのなら
その仕組みがどうあれ助かる、非常に助かる。

結局、私はなし崩しに契約書に判を押し
契約不幸家(彼はそう呼んでいた)となった。

帰り際に彼は、あんまりしあわせにならないで下さいね、と
冗談なんだか本気なんだかわからない顔で言っていた。


それから定期的に不幸を買い取って貰うため
彼と会い、不幸の抽出がてら、世間話と近況報告をする。
そうして結晶の出来により報酬を貰った。
相変わらず仕事は見つからないままではあったけど
そこそこ食べていける程度には頂けたこともあり
私は寧ろ、自分の不幸の品質を上げることに興味が出てきた。

曇りの日に、敢えて傘を持っていかないとか
嫌な店員のいる時間にお店に行くとか
進んで不幸が予測できる選択をするよう心がけた。
結果、わかってきたことはわざと自分が困ることをしても
あまり品質には影響しない。どちらかと言えば悪くなる。
自ら選んでしまっては、不幸とは違うのだ。体は正直。

相変わらず普段から不幸ではあったし
時々、虚脱感に襲われることもある位には滅入っていたけど
それがお金になると思うと少し平気になってきたせいか
ここのところ、品質が落ちてきたと言われてしまった。
確かに、不幸に対して鈍感になった気はする。

今ここで契約を切られてしまっては唯一の収入源がなくなるし
かと言って、もっと不幸になるよう自分に仕向けても
それがいい結果になる訳ではないことも知っている。


この都合のいい話も、そろそろ潮時かと思い始めた頃。

「非常に申し上げにくいのですが
今回で契約は打ち切らせていただくことになりました」

いつもの喫茶店で、彼は座席に着くなりそう切り出した。
私はえ?と言ったまま、何も喋れず、彼の言葉を待っていた。
長引く不況のためか、契約不幸家の数が増えてきたため
品質の低い者を切ることになったということを
彼は機器を取り出しながら、淡々と語った。

私は、ついに来たか、と思いながらもショックを隠しきれない。
最後の抽出を行うため、いつものように例の端子を咥え
掌を置いたつもりだったが、端子のキャップを外していないことを
彼に指摘され、ひどく恥ずかしい思いをした。

スイッチが入れられ、口中にピリリと微痛が走る。
心なしか、いつもより痛い。



今までに見たこともないような模様、サイズだった。
彼はその結晶を指先で弄びながら、契約時に見せたような
満足気な顔で私に向き直った。

「あの、さっきの話。嘘なんです。
すいません。本当にすいません」

また、え?という顔のままで固まっている私。
彼が言うには、長らく契約を続けていると
その安心感から、どうしても品質が落ちるため
テコ入れとしてこのようなサプライズを行うのだと言う。

「ただ、この手は一度しか使えないんですけどね」

苦笑いをする男前を見つめながら
心底、ほっとしている自分に気づいた。

お詫びと言ってはなんですが、と今回の報酬は随分と高額で
言わばボーナスのようなものなのだろうと思った。
帰り際、去っていく彼の背中に両手を合わせて感謝した。


最近思うのだ。
私の不幸は、彼の会社によって作られたもので
両親の失踪、恋人との破局や会社のリストラも
仕事が見つからないのも、信号が直前で変わるのも
並んでる列に横入りされるのも
食べたいスイーツが品切れするのも
すべて仕組まれたものなんじゃないかって。
そう考えれば、あの時に都合よく
彼が話を持ちかけてきたことも納得が行く。

だとして、それが今の私に何のデメリットがある?
あくせく働かず、日々適度な不安に苛まれて
時折、ハンサムな男性とお茶をする。
それはそれで、しあわせなんじゃないか、って。

おっと、それじゃいけない。
私は不幸でいなければならないのだ。



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自殺許可証
Papa told me

「こちらの用紙へご記名をお願いします」

機械から発せられる抑揚のない声と共に
酷く事務的に出力されたピンク色の用紙には
それほど大きくもないゴシック体の太字で
【諸権利放棄及び身体廃棄許可申請書】とのタイトル。
一般には、平たく「自殺許可願い」と言われている。

医療技術の進歩により、心肺停止状態はおろか
死後数日経った遺体でも蘇生が可能となって十数年。
民間レベルにもその技術が浸透したことで
人は老衰に起因する衰弱死以外で死ぬことは稀となった。

そんな科学技術の発展とは裏腹に、社会情勢の悪化や
人々の精神的疲弊度が増した結果、自殺は増加の一途を辿り
その発生件数が、あまりにも増えすぎたことによって
一部の自殺は犯罪として取り締まられるようになっている。

特に、債権などを残し、社会的責任を放棄する目的で行われた場合
蘇生された上で多額の蘇生費用と罰金が請求される。
身体の損傷が酷い場合は、バックアップされた直近の記録を元に
法規的クローンによる肉体再生が行われ、同様の請求が為される。

また、自殺は親告罪でもあり
関係者の申し立てによる立件も可能となっているため
未成年による犯行の場合はこちらでの適用が多い。
子どもが自ら死ぬことをよしとする親は多くはないのだ。

そんな中、自由に死ぬ権利を主張する団体も現れた。
「人は国家の奴隷ではない」とのプロパガンダの下に
自分自身の生殺与奪に関する権利獲得を目的とした集まりだ。
ただ、この団体の関係者が自殺をした話は聞いたことがない。
ともあれ、世論のひとつとしてクローズアップされたことにより
折衷案として考案されたのが、この「自殺許可願い」である。

合法的に自殺する権利を得るためには
二親等までの承諾と許可、通常生活圏における関係者の署名に
債権の有無を調査した報告書などが必要となる。
そう言った書類を一通り揃え、審査を受けることで
ようやく「自殺許可願い」が発行される。

それを提出すれば、晴れて「諸権利放棄及び身体廃棄許可証」
つまり「自殺許可証」を手に入れることができるのだ。

初めて見る「自殺許可証」に自分の名前を記入しながら
少し手が震えていることに気づき、思わず苦笑する。

僕が許可証を欲したきっかけは、“なんとなく”だった。
取り立てて欲もなく、これと言って苦労もなく
日々をただ生きているという人生。
それはそれで悪くないと思っていたのだけれど
取得が酷く難しいというこの許可証のことを知ってから
無性にその存在が気になり始め、実際に取得を志した人や
取得できた人、取得に関わった人々の情報を集めた。
調べれば調べるほど、どうしようもなく魅力的に思えてきた。

そうして、実際に手続きの準備を始めたのは半年ほど前になる。
仕事を円満に辞め、周囲との関係を少しずつ清算し
ローンや借り入れも全て完済する。
様々な書類は少しずつ揃ったけれど、一番苦労したのは親の承諾だ。
こればかりは仕方ないと思うのだけど
今更引き下がる訳にもいかない。
なだめすかし、時には「許可証なしでも死ぬかもしれない」と
脅迫ともとれる、普段の温和な僕からは想像できないことも言った。

そんな、僕がこれまでに見せたこともない熱意に負けたのか
説得を始めて8日目に、ようやく承諾をくれた。
泣いていた。僕も泣いた。

それから、実際に許可証を手にしてからは
まるで、死刑執行を待っている気分。
実際、僕は自分自身に死刑を言い渡したのだけど。

そうして許可証発行から一週間、ついに執行日がやってきた。
国から派遣された立会人の下、自殺は執行される。執行する。
場所は、国指定の葬儀場の狭い一室。
部屋の中にいるのは、僕と立会人だけだが
この状況は録画され、希望があれば遺族の元へ届けられるらしい。

立会人から手渡された死ぬための薬は乳白色をした液体。
子供用風邪薬のシロップのような容器に入れられて
うやうやしく手渡された。

「これ、飲んだら死んじゃうんですよね」

立会人の中年男性は、無言でゆっくりと頷いた。

事前に貰ったパンフによれば、執行後の僕の体は遺族へ戻されず
そのまま、葬儀場で廃棄処分されるとのことだった。
どうやら、不正なクローン化を防ぐ意図があるらしい。
直前になって知らされるのも事前のバックアップを避けるためとか。

無言の彼に促され、部屋の中央に据え付けられた安楽椅子に腰掛ける。

「その薬は一気に、飲み干す必要があります」

僕が薬の容器を手にして躊躇していると
ようやく口を開いた立会人は表情も変えずに言う。

長らく容器を見つめた後
僕は意を決して、その薬を飲み込んだ。



白い天井。

白衣を着た女性が僕の顔を覗き込んだ。
「起きられました?ご気分は?」

ご気分も何も死んだ人間には、と言いかけて
だるい感覚が全身を支配していることに気付いた。
そうして、恐らくはまだ死んでいないことも。

「ここは、どこですか?」

力の入らない腕をどうにか動かして
よたよたと向き直り、白衣の女性に聞いた。

「第二処置室です」

その後に聞いたこの部屋の意図は
朦朧とした脳の中をゆっくりと波立たせてくる。

許可証によって、自殺を執行したものは
心肺停止しているものの死んでおらず、仮死状態となる。
そのまま、面会を希望した親族や知人の前で簡易の葬儀が行われ
その後、この第二処置室へと運ばれる。

そうして、全てを終えた後に最終確認となるのだ。

「ここに2つの薬があります。
こちらの赤い薬を飲めば、数分後にはゆっくりと意識がなくなり
あなたの体は溶けだします。半日も経てば、跡形もなく消えます。
そうなってしまえば、蘇生は完全に不可能となります。

もう一つは記憶を部分的に消すものです。
あなたの家族と友人知人、そして許可証に関する全ての記憶を」

僕は少しだけ迷って、2つ目の青い薬を手に取った。
白衣の女性はにっこり笑って「やっぱり」と言う。
「ほとんどの方はそちらを選ばれます」

薬を飲み込み、意識が途切れる中で
僕は、どうやら完全な自由を手に入れたことを悟った。

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寡作な私
Papa told me
久々に、小説書きました。
というか、書いてたものをようやく載せました。

続・遠路遥遥

タイトルからお分かりの方も一部いらっしゃるかと思いますが
昔書いた「遠路遥遥」の続編です。

日付を見てのとおり、1月にアップする予定だったもので
それが4ヶ月近くのスパンを経ての掲載ということで
どれだけの大作かとお思いでしょうが
短編どころか、短い掌編なので
如何に私が、遅筆かというのがお分かり頂けるかと。

もうちょっとコンスタントに書けたら良いんですが
色んな誘惑に弱すぎて、このざまです。
あと、続きものなら書きやすいかなーと思ってたら
思ってた以上に(設定とかの)しがらみがあって
むしろ、難しいってことに気づいたりとか。
書くより先に、きっちりと設定を作っておけば
そうでもないんでしょうけどね。

そんな訳で、書きながら徐々に形を整えていってるので
二話目にして色々とおかしいところも出てきてますが
長い目で見て頂けると助かります。

というか、ゲームも作ってないから更にまずいな。
蘇れ!俺のクリテエイティビティ!
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しっぽ
Papa told me

隣の家の庭には心底頭の悪い犬がいて
私が傍を通る度に声が裏返るほど吠えかけられていた。
もちろん、首輪も鎖も繋がれているから
直接的な被害はないのだけど
私が犬嫌いになった原因は正にそこにあると思う。

小学校、中学校、高校の633で12年。
私はずっと吠えられ続け、大学の寮に入ってから
ようやくその呪縛から解放された。
学業やらサークルやら、とにかく忙しい一年を過ごして
正月、久し振りに実家に帰ってみると隣の庭が寂しい。
母に聞いてみると、犬は夏ごろに老衰で死んだという。

ついでに、私がずっと小さい頃、
そして隣の犬も小さかった頃に、
しょっちゅう一緒に遊んでいたらしいこと、
幼稚園に上がってから交流がなくなったことを教えてくれた。
それを聞いて、ちょっと気になり
散歩がてらに隣の庭を覗きこんでみたら
隣のおばさんと目が合った。

「犬、死んじゃったんですね」
「えぇ、もう随分お爺ちゃんだったから」

しばらくの沈黙。

「あ、そうそう。ちょっと待ってて」

おばさんがパタパタと家の中に入り
少し古い型のハンディカムを抱えてきた。

「これ見てくれる?」

私はビデオカメラの液晶を開き、再生ボタンを押す。

垣根の向こうを通る私に向かって吠える画面の中の犬は
そのふさふさのしっぽをちぎれそうな位に振っていた。


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続・遠路遥々
Papa told me

相変らずのプータロー生活やってます。
いや、今時はニートとか言うんでしたっけ。
正直、家でごろごろしてるのも不本意なのですが
長旅からの帰郷で環境の変化にまだ慣れてないこともあって
当分の間は、積極的に活動したくないところです。
怠け癖が付いたとも言いますけどね。

それはそれとして
先日父に会いに行ったことを母に伝えたら
目を丸くして激怒。ビンタを二往復くれました。
往路はともかく、復路って思っていた以上に痛いです。

いきなりのことで呆気に取られてると
「透子。もう二度とあの人には会っちゃダメ。……お願いだから」
なんて言いながら、さめざめと泣くので
しばらくは、ひどい罪悪感に苛まれたのでした。

ただ、父が死んでないとは思ってたんだなと。

とにかく、父のことをもう少し知っておきたかったものの
母がそんな有様では聞くにも聞けず。
そうなると、まずは父がくれた「賢者の石」について
一度、じっくりと調べてみることにしました。

さて、調べ物と言えば、最近はインターネットらしいですが
ウチにはインターネットがないのでその便利さを享受できません。

ということもあってアナログな知識の宝庫、図書館に行きました。
入り口で蔵書検索もできるようなシステムになっていて
時代の進歩を否応なしに感じさせられましたが
施設の中は、それほど大きく変わっていないようです。
古い書棚には、みっしりと色褪せた背表紙が並んでいました。

その中でも特に古さを感じさせる一角が魔術書のコーナー。
魔術書?
明らかに異質な空気が漂っていましたが
それ故に手掛かりはここにあると感じました。

書棚の間へ歩を進めてみると、ツンとすえた臭いがします。
ざっと眺めながら、さっきの検索システム使えば
楽なんだろうなと思いはしましたが
なんとなく、それでは見つけられない気がします。

さて、それでは何を基準に見つけるか?
似たような背表紙、読めない文字、比べようもないところで
取っ掛かりなんてさっぱりありません。

しばし考え、父の“遺品”である手帳と似た
羊皮紙の薄い本を選びました。
最悪、端から順でも構わないなら、何らかの接点のあるとこから。


受付に本を持っていくと見覚えのある顔。
こないだ、父の事務所に居たお姉さんでした。
「あれ?」

「こんにちは。ご返却ですか?」
操作していたパソコンの画面から、私に視線を移した彼女は
あらこんにちはと、にこやかな挨拶をくれました。

「司書の資格もあるので、事務所が暇な時にこちらにいるんです」
本の裏見返しに挟まれたカードを裏返し
必要事項を記入するお姉さん。

「まぁ、大体は暇なんですけど」
そう言って、にっこり笑いながら本を渡してくれます。
なんとなく、申し訳ない気持ちになりながらも
こちらも負けじとニッコリ。

「はい、どうぞ。こちらが新しい個人カードです」
渡されたプラスチックのカードを弄ぶ私。
一応持ってきていたカードは、小学生の頃に作ったもので
紙製だったこともあり、高級になった感じが嬉しくて。

まぁそれはそれとして。
「あの」確認のため、聞いておきたいことがありました。

「私がここに来ること、もしかして、わかってらっしゃいました?」

一旦、キョトンとした表情を浮かべたあと
「さぁ、どうでしょう?」
お姉さんは意味ありげに微笑みます。

そう答えられては、それ以上聞くこともできず
にこやかなままの彼女に見送られて
結局その日は、そのまま帰ることにしました。

家に着き、母に見つからないよう自分の部屋へ。
とりあえず中身を確認してみると案の定、全く読めません。
何語かさえ判別できないほど崩れた文字と
縦書きなのか横書きなのかもわからない位に踊る行。

呆然としながら、しばらくページを繰ってみましたが
そもそも、まともな語学の勉強もしたことない私が
そんな正体不明の文字を読めるワケがないのですが……。

いや、ちょっと待った。
これは文字なんかじゃない。

数ページ捲った後、明らかに様子の違う1ページを見つけ
私は突然、そう思うに至ったのです。
その異質なページには、黄色い付箋に「ヒント:指」とだけ。

付箋を外し、そこに踊る文字風の何かを凝視して
ひとつの考えが浮かびました。
ページの中、一箇所だけにある赤い文字的なモノに指を当て
ゆっくりと思う方向へ、順繰りになぞってみます。
徐々に指先が温かくなっていく錯覚を覚えながら予感が確信へ。
明確に指の腹が熱くなってきたところで
ページ全体が波打ち、思いも寄らぬほどの煙が立ち上ります。
やった?やっちゃった?

これは恐らく、呪文の運指表なのです。
文字と思われたものは、運指の方向を表したもので
本自体が、なんらかの触媒としての機能もあるのだと思います。

そして間違いなく、この付箋を貼ったのは父でしょう。
私が図書館へ行くこと、そしてこの本を手に取ることも
計算の上で、お膳立てしていたに違いありません。

ゆっくりと晴れていく煙の下、ページ上に現れた
花丸にも似た文様は、父から「よくできました」と言われてるようで
なんとも、酷く癪に障るのです。ちぇ。

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